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もりみちブログ

2019年2月14日

最後の一枝

河野小学校近くから見る。2019/2/14

一枝だけ生き残っている。2019/2/14

昨夏,松山市宮内(旧北条市)にある河野小学校を訪問した際,校庭から民家越しに巨大な木を見た。その異様さが気になっていたが,数ヵ月後,北条地区の地域資源調査でその木と対面した。松山市天然記念物に指定されている「宮内のイブキ」だった。
車を降りて路地を抜けると,原っぱの一角にイブキの大木が聳えている。樹高20m,幹周りは5mで,太い枝は荒々しく屈曲して四方に伸び,圧倒的な存在感を示している。しかし見るとどこにも葉はなく,枯れ残った白骨木となって立っている。悲しい姿だ。
「指定解除」の言葉が思い浮かんだ。だったら調査する必要はない。天然記念物に指定されながら枯れた木はクロマツを始めとして県指定だけでも22本以上もある。その都度,「指定解除」の無念な決定が下され,やがて切り倒される。強風で倒れると危険だからだ。
ところが根元にある解説板は真新しい。松山市教育委員会が数年前に設置したばかりだ。まだ指定は解除されていなかったのだ。
目を凝らすと,梢から横に伸びた枝の途中に緑が見える。5階建てのビルを越えるほどの巨木であるが,上部の枝のたった一箇所にだけ葉を茂らせて,まだ生きていた。
土の中でわずかに生き残った根は水分を吸収し,枯れた幹の中に一筋だけ繋がった管を通して梢の葉に届け,葉は日の光を受けて養分を作り,生き残った細胞を支えているのだ。
しかしすでにこの状態では延命処置は難しいだろう。私は「今際(いまわ)に立ち会った」気持ちで写真を撮った。 
研究室に帰ってから古い資料を探すと,その木の過去の記録が見つかった。写真を見て驚いた。指定を受けた50年前にすでに幹の上部に枯れが目立っていたのだ。30年前の写真では幹の四方に伸びた枝の多くが枯れており,20年ほど前には葉をつけるのは数本の枝だけとなっている。
イブキは強壮かつ長命な木として有名だ。だからこそ樹勢の衰えが顕著になってから50年以上も生きているのだ。今は一枝の葉だけとなっているが,天寿を全うするまで,これから十数年以上もしぶとく生き続けるだろう。なにしろ今までに700年も生きてきたのだから。齢(よわい)六十が近づいた私が逆に励まされた。2019/2/14,hmatusi
※愛媛新聞四季録(2011/2/24版)に投稿したものです。あれから8年経ちました。


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