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もりみちブログ

2018年1月17日

アカマツ林を残せるか?

残存しているアカマツ林

広葉樹林のなかで立ち枯れしたアカマツ

 愛媛県の松枯れは昭和21年に初めて確認された。被害面積は昭和42年には10㎢以下だったのに昭和55年には190㎢に急増した(ほぼ伊予市や東温市の面積)が,その後減少し近年は20㎢前後で推移している。この被害面積の減少は松食い虫(マツノザイセンチュウとそれを媒介するマツノマダラカミキリ)の防除効果とマツ林そのものの減少によるものだろう。
 海岸の白砂青松のクロマツ林や岩峰のアカマツ自然林は景観的にもぜひ残したい林であり,愛媛県では薬剤の樹幹注入や地上散布によってピンポイントの予防措置をするとともに抵抗性マツの植樹も行っている。
 しかし内陸の広い面積のマツ林の防除は費用対効果の面からも以前から薬剤の空中散布が行われている。空散については,かつて愛大農学部の石原保先生が国会の場で意見表明をしたように問題点はあるものの,隣接する未空散地域と比較すると松枯れの進行を遅らせる効果が報告されている。
 かつてマツが燃料や材として利用されていた頃はマツ林の生活面や経済面での価値があったが,それが失われた今,空散をしてまで守ろうとするマツ林の価値とはなんであろうか。
 ある人は幼いときから見てきたマツ林は郷土の誇る景観であるから残したいという。昭和50年代まで沿岸部にどこでも見られたマツ林だが,急減してしまった現在においては同感できるマツ林の価値である。加えてマツグミ,ハルゼミ,フサヒゲサシガメ,シロスジコガネ,マツタケに代表される多くのキノコ類などマツ林に依存している生物の生息地を残すことは生物多様性保全面からも現在的な価値である。
 しかし松食い虫が蔓延する以前に,人の立ち入らなくなったマツ林では他の広葉樹が生長して暗くなり,発芽生長に日当たりが必要なマツはその後継樹が育たない状況であった。またマツ類は代表的な菌根性樹種であり,土壌養分の吸収は事実上すべて菌根菌を介して行っているが,暗く富栄養化した林床では菌根菌も衰退し,高木のマツも衰弱していた(今や絶滅危惧種となったマツタケもマツ林の菌根菌)。
今,高木層のみに残ったマツは薬剤散布で延命しているが,それを止めると早晩,枯れるだろう。その後は亜高木まで伸び上がったコナラやアベマキ,カシ類の広葉樹林となる。これは先駆的なアカマツ群落の通常の遷移である。
 もしマツ林を景観的価値あるいは生物多様性的価値のために後世に残すとするなら,過去の人々が数百年間にわたって遷移を止めてきたように,人手で落ち葉搔きや林内の低木の刈り取りをして,林内に後継樹を育てるしかないだろう。マツ林の生態系のキーストーン種は人間である。hmatsui
参考・引用:明間民央「松林と菌根菌」,グリーンエイジ32(3):8-10。


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